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医療的ケアの必要な子どもとその家族を支える、地域の理解と繋がり

「スペシャルニーズのある子どもと家族支援を考えるシンポジウム」レポート①

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2019年2月27日、 日本財団ビルにて「スペシャルニーズのある子どもと家族支援を考えるシンポジウム」を開催した。このシンポジウムについて、全4回にわたって紹介する。初回は、ひばりクリニック院長 兼 認定NPO法人うりずん理事長 髙橋昭彦氏の基調講演の様子をお届けする。

新しいモデルを発信し、難病児とその家族を支える社会をつくる

今回のシンポジウムは、北は北海道から南は沖縄まで、全国から約150名の方々が会場に集まり、中には分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を使って、遠隔から参加する方もいた。

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シンポジウムの冒頭、日本財団理事長の尾形武寿は「小児の在宅ケアについては、主な介護者が母親であるため、どうしてもお母さんの負担が大きくなってしまっているのが現状です。少しでもお母さんが自分の時間を取り戻せるように、また、難病児のきょうだいとの時間を大切に過ごせるように、行政が仕組みを整える必要を感じます。私たち日本財団が、全国30ヶ所に難病児を預けることができるモデル拠点の施設整備を進めるなど、社会に新しい事業モデルを示すことで、国が動くきっかけになってほしいと考えています。障害がある方もない方も、そしてそのご家族も、みんなが同じフィールドで、当たり前に生活ができる。そういう社会を作らなくてはなりません。このシンポジウムが、そのお役に立てたらと思っています」とエールを送った。

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どんな子どもにも当たり前の日々の暮らしを

シンポジウムは、ひばりクリニック院長 兼 認定NPO法人うりずん理事長 髙橋昭彦氏の基調講演からスタートした。ひな祭りが近いということで、お内裏様とお雛様が乗ったかわいいかぶりものを頭につけ、笑顔でステージに登壇した。

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「私は日常的にこういうかぶりものをして在宅医療を行なっているんです。楽しいかぶりものをしていくと、お子さんがニコッと笑ってくれたり、何かしらリアクションをしてくれたり。それが楽しみなんです。いつも、保育士のスタッフに作ってもらっています。今日は、私が出会ったお子さんとそのご家族から教わったことを、みなさんにお話したいと思います」

たくさんの子どもと家族の写真パネルが並ぶあたたかい空気の中、髙橋氏は〝ハレとケ〟をキーワードに、医療的ケアの必要な子どもや重い障害がある子どもたちの暮らしについてこう話しはじめた。


「日本には、古来から〝ハレ〟と〝ケ〟という概念があります。私は、特別なことはない、当たり前の〝ケ〟という日も大切だと思っています。『栄養のあるものをおいしく食べたい』『トイレは好きなタイミングで、人目も気になるから恥ずかしくないようにしたい』『週に7日お風呂に入りたい』『お友達と遊びたい』『電車やバス、飛行機に乗って移動したい』『勉強をしたい』『働きたい』。そういうことが、どんな子どもたちも、同じように出来るべきじゃないかと思っています」

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しかし、「医療的ケアの必要な子どもにとっては、決してそうではない」と髙橋氏。こう続けた。

「日本はおそらく、世界一、新生児が死なない国だと思います。昨日、慶應大学病院で昨年268グラムの世界で一番小さく生まれた子が無事に退院された、というニュースがありました。これはとても素晴らしいことがですが、その裏には、関係者の方々のものすごい努力があったと思います。医療の進歩によって、小さな子たちが救われるようになっています。それはとても喜ばしいことですが、その一方で、医療的ケアが必要な子どもは、ここ10年で2倍になり、現在1万8,000人を超えています。人工呼吸器を必要とする子どもの数も増えました。その他にも、重い障害がある子どもたちがいますが、そういう子どもへの社会的制度設計は、まだ追いついていません。障害がある子どもやご家族が普通に暮らせるようになるためには、そういう人たちを支えるサービスや仕組み、人材の育成が必要です」

うりずんは、障害がある子どもと家族の当たり前の日、〝ケ〟の日を支える大切な場所なのだ。

0だった経験を一つずつ積み重ね、成長を豊かなものにする

うりずんは、医療的ケアが必要な子どもや重い障害がある子どもたちとその家族が心身ともに健やかにいるためのコミュニティの場であり、子どもたちの感性を豊かにする場でもある。

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「障害がある子どもたちは、トイレに行きたい時はサインで知らせます。親だったら、わずかなサインでも気づきます。でも、親以外の大人には、きちんとサインを出さないと伝わらないんですね。家とは違う施設で過ごすようになると、徐々に子どもたちも伝える必要があるとわかるようになるから、きちんとサインが出せるようになります。それが、彼らの自立に繋がる道だと、私は思うのです。重症であればあるほど、親以外の大人に預かってもらう機会はなかなかできないかもしれませんが、これは子どもにとっても重要な意味があることです。それに、障害がある子どもたちは、その年齢の子どもが経験するであろうほとんどの経験をせずに過ごしています。でも家から外に出て、例えば、動物園でウサギに触ることができたら、ウサギってあったかいんだっていうことを体験して、経験値が0から1になる。そういう経験をひとつずつ積み重ねていくことが、子どもたちの成長を豊かなものにします。子どもたちは、うりずんでの時間をとても楽しく過ごしています。本人が楽しそうだと、ご両親も罪悪感なく預けてることができるのです」

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経験が足りないという点では、普通に学校に通うことが難しい子どもも多い。しかし、希望を持てる嬉しい事例があったのだそう。

「宇都宮市での事例ですが、ミオパチーという筋肉の病気の女の子がいました。彼女は、夜は人工呼吸器が必要でしたが、歩くこともできました。宇都宮市教育委員会の合理的配慮検討会で、看護師の資格を持つ特別支援教育支援員の派遣が決まり、普通小学校に通えることになったのです。2年生の夏から昼でも人工呼吸器が必要になりましたが、本人の希望と校長先生のあたたかいご判断で、人工呼吸器を付けていても、普通の小学校の授業を受けることができるようになったのです。しかも、親が常に付き添っている必要はなく、教育委員会から派遣された看護師さんが付いていてくれます。時折、痰の吸引が必要で、授業中にもジュルジュルと音を立てなくてはならないシーンもあるそうですが、周りのクラスメイトも、女の子の命を守るためのことだと理解しているので、誰も気にしていないのだそうです。すばらしいことですよね」

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子どもたちと家族の声を「聴く」ために「出向き」、「つなぐ」ということ

医療的ケアの必要な子どもや重い障害がある子どもたちとそのご家族を支えるためには、多様なセクターの人々の関わり合いが重要だと髙橋氏は言います。

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「私は医師ですが、医師単独でできることは、ほとんどありません。多職種連携と言いますか、みんなが手を取り合って支えを必要とする人に向き合い、繋がっていくことができれば、なんとかなることってあります。そのために必要なことが3つあります。

1つ目は、『聴く』。儀賀 理暁さんという医師から聞いたコップ理論というものがあります。もやもやとした悩みを持った人に対しては、何を話してもダメ。まずは、話を聴くことで、その抱えたものを全部吐き出してもらうのだそうです。それは、コップを空にするということ。空にしないと、新しい水は入らないということなんです。

 

2つ目は、『出向く』。よくご家族から聞くのですが、いろいろな補助を受けるための申請には、行政の窓口に行かなければならないことがほとんど。でも、外出が難しい人たちには、簡単なことではありません。だから、出向いて申請できるようにする、もしくは間を取り持って代わりに申請できるようにする、という必要があると思います。もちろん、訪問看護、ホームヘルパーや在宅医や、障害者相談支援専門員もお家へ出向きます。

 

そして最後は、『つなぐ』。単一の職種では解決できないことも、いろいろな人と手を取り合うことによって、解決の糸口が見つかることはあります。

『聴く、出向く、つなぐ』、この心配りをしながら、今後もみなさんと一緒に取り組んでいけたらと思っています。手を取り合って、子どもたちとその家族が幸せに過ごせることを願っています」

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「自分にもできることがある」。今回の講演を聴いて、そんな希望を抱いた参加者も多かったのではないだろうか。まずは、出向き、耳を傾けることから。

 

次回は、セッション1「30代の現場から見た難病児支援」をお届けします。